要(2005)「社会的位置付けをもった日本語教師のビリーフ・システム」―構造方程式モデリング(SEM)によるモデル化とその考察―

①どんな問題を扱っているか?
ビリーフシステムの解明とモデルの提示
学習者を自律的にするためには教師自身もビリーフの変容しなければならないと述べている。その変容に効果的に介入するには、ビリーフシステムの解明が必要だとし、日本国内の日本語教師のビリーフシステムのモデルを提示した。
②どんな方法でアプローチしたのか?
社会的に「教師‐学習者」といった関係を持つ社会的位置付けをもった日本語教師に対し、日本語教育現場や日本語教師に関わる80項目の質問紙調査(6段階で回答)を実施した。
その結果を因子分析し、構造方程式モデリングによって分析した。
③どんな結果が出たのか?
12因子を抽出。そのうち9因子を解釈。「指導の厳格性」「やりがい」「私生活の犠牲と干渉」「学習の自律性要求」「教師の役割と力量」「学習活動の多様性」「学習事項の定着」「背景知識の重視」「学習の正確さ」
因果関係のある因子:

<正のパス>前項が強くなればなるほど後項も強くなる。
「教師の役割と力量」→「学習事項の定着」→「学習の正確さ」→「指導の厳格性」
教師としての役割を果たせば正しい日本語をきちんと指導できる。
自律させようとすれば、確かな日本語が身に付かず、確かな日本語を身に着けさせようとすれば、自律学習は促せない。
「やりがい」→「私生活の犠牲と干渉」→「学習活動の多様性」、「指導の厳格性」の一部
日本語教師に強いやりがいを持っている教師は、プライベートを犠牲にして教材の研究・作成を重視している。またそのような教師は授業活動の多様性を重視している。またやりがいの強さが学生の生活に干渉させることになり、それが指導の厳格さとなっている。
<負のパス>前項が強くなればなるほど後項が弱くなる。
「教師の役割と力量」→「学習の自律性要求」、「学習の自律性要求」→「背景知識の重視」
学生の日本語能力に対する教師の責任や、学生の従順さへの期待、クラス制御の役割=「教師の役割と力量」ビリーフが強まると学生の自主的学習を期待=「学習の自律性要求」が弱まる。
④結果の意味・インパクトは何か?
SEMを用いた分析により、ビリーフ間の関係を記述した。これまで変数を単独で解釈したり、あるいは因子分析をしてもそれぞれの因子を単独で解釈するのみであったが、要(2005)は、各因子間の因果関係の有無を見出し、ビリーフシステムのモデルを提示した。